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池井戸潤『BT’63』レビュー

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今回は池井戸潤氏がインタビューで最も気に入ってる作品と語る『BT’63』をレビューします。

『BT’63』あらすじ

大間木琢磨は、ある日亡くなった父のものと見られる金モールが入った派手な服を実家の押し入れで見つける。衝動的にその服を着てみると、刹那その視界に広がったのは1963年の蒸し暑い夏の風景だった。若き日の父・史郎の目を通して断片的に映し出される鮮やかなグリーンのボンネットトラック『BT21』、運送会社での新事業開発、母と出会う前の淡い恋。そこには琢磨が知らない父の姿があった。しかし、史郎にはある闇の刺客がひたひたと足音を鳴らして近づいていた。心を病み妻に去られた琢磨は自身のルーツと知られざる父の過去を求めて現代と過去を交錯しながら父の足跡を辿って行く。時空を超えた父と息子の感動ミステリー長編。

本作は上下巻に分かれていて、総ページ数は約900ページとなかなかの大作です。

序盤は伏線を至るところに散りばめながら進行していくためローギアな展開が続きますが、中盤以降はギアが一気に上がり怒涛の勢いで物語が展開されていきます。

『BT’63』見どころ

「女にとって過去は敵なんだよ」

琢磨の母が序盤でつぶやくセリフなのですが、すべてを読み終わった後にあらためてこの言葉を見るとある意味本作を集約した一言だなと感じます。

本作は『BT21』と呼ばれる日野自動車製の『TE11型ボンネットトラック』を軸に進んでいきますが、その中で琢磨の母『良枝』、父・史郎の過去の恋人『鏡子』、琢磨の元妻『亜美』という3人の女性たちが登場します。

良枝は琢磨が知らない史郎の想い出を胸に秘め、鏡子は史郎と出会う前の過去に引きずられ、亜美は琢磨と離婚後のある出来事に苦悩します。

本作は琢磨と史郎の物語ですが、それとは別に3人の女性の生き様にもぜひ注目して見てもらいたいです。

スミス

女性は強いなとあらためて実感したよ。

『BT’63』まとめ

人は与えられた環境や境遇が厳しければ厳しいほど、自らのルーツを求める気がします。

脳神経外科医で日本大学名誉教授の小林成之氏によると、人間には生まれつき「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という根源的な本能が備わっているそうです。

本作の主人公である大間木琢磨はある日を境に心が病んでしまいます。だからこそ本能的に「生きたい」と願い、自分自身のことを「知りたい」と考えた結果、BT21に呼び寄せられたのかもしれません。

琢磨の自分探しの旅から派生する様々な人間模様を巧みに描写した本作。自分を見つめ直すきっかけにもぜひ。

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スミス
ビジネス書のレビューをしてる書評家です。たまにオフィスワークに便利なグッズを紹介してます。本業は管理部門勤務。一児の父。無類のチーズケーキ好き。