本作の著者である西野亮廣という人は掴みどころがない。
お笑いコンビ「キングコング」としてブレークするもいつの間にかテレビで観なくなり、消えたのかと思いきや今度は絵本を書いたりオンラインサロンやクラウドファンディングを主催したりと得体が知れない。はっきり言うと怪しい。怪しすぎる。
いつの間にか僕の中では嫌いな部類にカテゴライズされていた。
そんな僕が著者に興味を持つキッカケとなったのはYouTube。オリエンタルラジオの中田さんと雨上がり決死隊の宮迫さんが作ってる『Win Win Wiiin』という動画。
これがめっちゃおもしろくて、西野亮廣という人間に一気に興味が湧いたよ。
動画は前編と後編に分かれてて、それぞれ中田さんのチャンネルと宮迫さんのチャンネルで見られるようになってますが、西野さんが絵本『えんとつ町のプペル』を描くに至った経緯や絵本をヒットさせるための戦略なんかをトーク番組形式で見ることができます。
動画を観て感じたのは、絵本作りは適当にやってるわけじゃなくしっかりとしたビジョンと情熱を持って作ってるんだなということ。いつから絵本を作り始めて、どのようにして大ヒットとさせていくのかが丁寧に解説されてます。
そんなこんなでもっと西野さんの頭の中が知りたくて、本作『革命のファンファーレ』を手に取ります。
本作は『えんとつ町のプペル』をベストセラーにした広告戦略をメインテーマにした一冊です。
と言っても書いてるのは広告のことだけじゃありません。
絵本は物語を考えるのも絵を描くのも基本一人で全部やります。でも、なぜ一人で全部やらなきゃいけないのか明確な答えは誰も知りません。それどころか疑問に思わない人も少なくないと思います。
本作はそんなそもそもな疑問についても西野さん独自の答えを導き出してます。
また、西野さんと言えばクラウドファンディングですが、本作は絵本でクラウドファンディングを利用した狙いや効果についても詳しく解説してます。
そんなわけで今回は西野亮廣さんの『革命のファンファーレ』を紹介します。
えんとつ町のプペルとは
まずは『えんとつ町のプペル』を知らない人のためにあらすじを簡単に紹介しておくよ
『えんとつ町のプペル』はあるハロウィンの日に周りを高い崖と海に囲まれ外の世界を知らないえんとつ町で、配達屋さんが落とした心臓にゴミがくっついて『プペル』が生まれるところから物語がスタートします。
ゴミ人間のプペルは体が臭くて汚いせいで町の人から嫌われ、いじめられるようになります。そんな時に出会ったのがえんとつ掃除屋として家計を助ける『ルビッチ』でした。
ルビッチは海で父親を亡くしています。ルビッチの父は町で唯一の漁師でしたが、えんとつ町では海には魔物がいるからという理由で海に出ることが禁止されているため、海に行けば星が見えると言っても誰にも信じてもらえず嘘つきというレッテルを貼られたまま亡くなっていました。
プペルとルビッチはすぐに仲良くなりますが、ルビッチはある出来事からプペルと遊ぶことをやめてしまいます。
そんなある日、ボロボロになったプペルがルビッチの家にやってきます。
「いこう、ルビッチ」
プペルはルビッチをどこに連れて行こうとしてるのか。そして二人はまた友達に戻れるのか−。
超分業制で絵本を作る
先程も書きましたが、絵本は通常作者が一人で描きます。でも「えんとつ町のプペル」は西野さんを中心にクラウドソーシングで集めた35名のスタッフと協力して描いています。
なぜ35人で絵本を作ろうと思ったのか
そこには役割ごとに得意な人に任せた方が作品の質が上がるという西野さんの考えがあります。個人的にもキャラクターデザインはキャラクターデザインが得意な人に、背景は背景が得意な人にそれぞれ任せた方が一人で描くよりも質が高くなるという考えは理にかなっていると思います。
この考えを証明するように映画の場合、監督、助監督、音声、照明、美術、役者と各役割ごとにプロフェッショナルが担当しています。役割ごとに得意な人が担当する方が効率が良く、利益を最大化できるからです。
なぜ絵本業界は分業制にしないのか
ではなぜ絵本業界は分業制にしないのでしょうか。その理由を知るにはまず絵本業界のことを知る必要があります。
KDDI総合研究所によると絵本業界はここ数年販売額が約300億円前後で推移しています。一方、日本映画製作者連盟によるとすでに分業制をしている映画業界は2019年における興行収入額が約2,600億円となっています。
絵本業界は単純計算で映画業界の1/8以下の売り上げしかないのか。。
このように絵本業界は市場規模が小さいため、必然的に一冊の絵本にかけられる予算も限られてしまいます。そのためスタッフを雇うお金がなく、分業制にしたくてもできない可能性が高いわけです。
そこで西野さんは『資金さえ確保できれば分業制を実現できるんじゃないか』という仮説を立てます。
資金調達をする
ではどうやって資金調達をするのか。西野さんはここでクラウドファンディングを活用します。
クラウドファンディングってなに?
クラウドファンディングとはインターネット上で企画をプレゼンし、一般の人から支援(=お金)を募るシステムです。
クラウドファンディングは芸能人など知名度がある人なら簡単にお金が集まるんじゃないかと考えがちです。しかし、芸人のとろサーモン久保田さんがクラウドファンディングに挑戦するもあえなく惨敗してしまったように、ただ知名度があればお金が集まるというわけでもなさそうです。
芸能人でもお金が集まらないならどんな人がお金を集められているのでしょうか。
その答えのカギは『お金の仕組み』と『クラウドファンディングにおける信用』にあります。
『お金の仕組み』とは
普段なにげなく使っているお金ですが、そもそもお金ってなんでしょうか。
西野さんは「お金とは『信用を数値化したモノ』」と語ります。
大昔はお金なんてなくて、欲しいものがあればそれと同じくらいの価値があるものと交換していました。いわゆる『物々交換』です。
しかし物々交換は『お互いが欲しいものを交換する』のが基本なので、相手が欲しいものじゃないと成立しません。
そこで登場したのが『お金』です。
人々はまず価値が下がりにくい貝、塩、砂金などの物品貨幣と欲しいものを交換するようになります。
貝や砂金などの価値は下がらないという『信用』を交換するようになったんだね
その後、お金は持ち運びに便利なように硬貨や紙幣、クレジットカードと形を変えて今に至ります。
クラウドファンディングにおける信用
次にクラウドファンディングですが、西野さんはクラウドファンディングを『信用をお金化するための装置』と定義しています。
ここでいう『信用』とはお金を払ってまで応援してくれるファンがどれだけいるかです。
例えば何年か前に話題になったタレントのベッキーさんがゲスの極み乙女のボーカルと不倫した件ですが、最終的にベッキーさんはテレビで見なくなってしまいましたが、ゲスの極み乙女のボーカルはその後も活動を続けられています。
両者の違いはなんだったのでしょうか。
ベッキーさんは好感度を売りにしてスポンサー収入だけで稼いでいたため、不倫によって好感度が下がると同時にスポンサーから起用されなくなりテレビから消えていってしまいます。
対して、ゲスの極み乙女のボーカルは元々スポンサーに依存せずに自分たちの曲で生計を立てていました。要は「良い曲を作る」と言う点に関しての信用が高かったのです。
そのため、不倫をしようがゲスの極み乙女の曲が好きな人たちは変わらず応援してくれるため、活動を続けられたのです。
このようにクラウドファンディングでは好感度のあるなしに関わらず応援してくれるファンがどれだけいるかが重要になってきます。
お金を払ってくれるファンがいればいるほどクラウドファンディングの成功率は上がっていくよ
読書後記
ここまで『革命のファンファーレ』の内容について少しですが紹介してきました。
本作はここから『マネタイズのタイミング』、『フリーミアム戦略』など、西野さんがえんとつ町のプペルを作るにあたり考えた戦略がより深く紹介されています。
僕は本作を読んで学んだことが色々ありましたが、その中でも最も影響を受けたのは『決定権は覚悟がある人に宿る』ということです。
例えば、新人時代は取引先からよさげな企画や提案があっても決定権がないので上司に確認を求めるのが普通だと思います。で、確認してもらった結果ボツになって泣く泣く見送った経験が誰しも一度はあるんじゃないでしょうか。
ボツになった時は「この上司はわかってないな」と思ったもんだよ
でも本書を読んだあとに考えるとボツになったのは上司のせいじゃなく、何がなんでも承認させるという覚悟が僕自身に足りてなかったのが大きな要因だったんだと思えます。
本書は中堅となった今でも気を抜くと決定権がないことを立場や役職のせいにしがちな僕の目を覚まさせてくれた読後感爽快な一冊でした。
それでは今回はこのへんで失礼します。
ご静読ありがとうございました
